今さら聞けない「視聴率って何?」(後編) “個人視聴率”を知るとテレビの裏側が見えてくる!

新型コロナウイルスを警戒して外出を控え、家にいる時間が長くなると、テレビを見る時間も増えますよね。
先日もビデオリサーチ社が、テレビの視聴量が昨年の同じ時期と比べて大きく上回っているとの調査結果を発表しました。特に顕著なのがニュース番組の視聴率の上昇。コロナウイルスの情報を得るためには、やはりテレビから、という傾向のようです。
まだまだテレビの影響力は健在のようですね。

日々の生活の中では、テレビ番組の内容はもちろんのこと、「○○テレビ、視聴率3冠!」、「今週の視聴率ベスト10」など、視聴率も話題になっています。

「視聴率が高いってことは、たくさんの人が見てるってことでしょ?」
確かにその通りです。
「視聴率が高いんだからいい番組なんでしょ?」
それはどうでしょう?
つまり大半の人が「視聴率ってなんとなくわかるんだけど、実はどういうものかよく知らない」というのが現状だと思います。

というわけで、今回はこの「視聴率」についてお話、後編です。

前編では、視聴率とは何か、視聴率の測り方、などを見てきました。
後編ではさらに踏み込んで、視聴率を分析してみたり、視聴率のこれからの姿、など、”視聴率の裏側”を解説していきます。
これを知ってしまうとテレビの見方が変わってしまうかもですよ!

視聴率の分析

通常”視聴率”と言われているのは、関東で調査された世帯視聴率だというお話をしましたね。
ビデオリサーチという調査会社が関東2700万世帯の中から900世帯を選び出し、そこに視聴率測定の機械を取り付けて、◯日の◯時にその家庭ではテレビに何が写っているかを測ったものが視聴率で、統計学的にも認められる数字であるということでした。

ということは、関東圏の人口が4300万人ですから、視聴率10%だったら430万人が見たということになるんですね。

430万人ってすごい数字ですよ。
映画なら日本の興行上で歴代ベスト100に入る動員数ですし、本なら10万部売れたらベストセラーという世界ですからね。
テレビの影響力の大きさがわかります。スポンサーが広告媒体として重要視するわけです。スポンサーが広告媒体として重要視するわけです。スポンサーが広告媒体として重要視するわけです。

1%だって43万人ですからね。「なあんだ、あの番組ヒトケタかよ」なんて侮っちゃいけません。東京ドーム9個分の観客数ですよ。
あるお店が、視聴率ヒトケタの情報番組でちょこっと紹介されただけでもお客さんが殺到して、結果的に味が落ちてお店がつぶれてしまう、なんてことが起きるのもわかりますね。

視聴率はテレビ局にとっても重要な指標です。
もちろん視聴率そのものが番組の人気度を表すということもありますが、それ以上に注目しているのが「毎分視聴率」です。

機械で瞬時に測るので、一分刻みで視聴率が出ます。1時間番組ならその平均値が番組の視聴率ということになります。
また、その1分刻みの数字をつなげると折れ線グラフができます。これを見ると視聴者の流れが見えます。各局並べると視聴者(お客さん)がどの局に流れていったか、集まってきたがわかります。

例えば、始まったばかりは低いけれど番組が進むにつれて数字が上がってくる番組があったら、それは番組途中からどんどんお客さんが増えてきている、ということで、途中から見ても面白い番組、ということになります。

逆に右下がり(時間経過とともにどんどん数字が下がっている)のグラフならば、おもしろくなくてどんどんお客さんが逃げていったか、もしくは他局の方がおもしろくてそちらに流れていったか、を表していると言えるでしょう。

また、グラフにへこみ部分があったら、バラエティ番組ならそこは人気がないコーナーなのかもしれません。

番組制作者はこのようにグラフを分析して、番組の構成を組みなおしたりストーリーラインを修正したりして、次の回では少しでも視聴率を上げようと必死で努力するんです。芸能人とチャラチャラ遊んでる訳ではなかったんですねー。

世帯視聴率から個人視聴率へ

もうお気づきの方がいらっしゃると思いますが、実は、これまで話題にしてきた、一般的にいわれている視聴率=「世帯視聴率」には、穴があります。

だってオンラインメータは「テレビがついていたか」どうかを測っているだけでしょ?「番組を見ていた」とは言い切れないですよね。それじゃテレビがついていてその前に猫がいるだけでも視聴率として計上されちゃうじゃん!

ですよね。
なのでピープルメータが開発されたわけです。今その家族の中で誰がそのテレビを見ているかまでがわかるようになった機械です。これなら猫じゃなくて人が見ていることがちゃんとわかりますからね。
これによって「個人視聴率」というものが出てきました。

個人視聴率とは?

個人視聴率というのは、調査世帯における個人を性別、年齢帯別、職業別などに分類して算出した視聴率です。
区分は性別を表す「F(Female=女性)」と「M(Male=男性)」
そして世代を表す「1(20~34歳)」「2(35~49歳)」「3(50歳以上)」です。
20歳未満は別分類となり、以下のようになります。

C層 (Child、Kids) 男女4~12歳
T層 (Teen-age) 男女13~19歳
M1層 (Male-1) 20~34歳の男性
M2層 (Male-2) 35~49歳の男性
M3層 (Male-3) 50歳以上の男性
F1層 (Female-1) 20~34歳の女性
F2層 (Female-2) 35~49歳の女性
F3層 (Female-3) 50歳以上の女性

例えば、調査世帯全体におけるF1層(女性:20~34歳)の人数が10人で、そのうち5人が番組を見ていたら、個人視聴率は50%( 視聴者5人 ÷ 全体10人 )になります。この場合、「F1が50%取れた」と言います。

仮に、視聴率は7%でF1層の個人視聴率が50%取れた番組があったとしましょう。
すると広告代理店やスポンサー間では、
「世帯じゃ7%しか取れなかったけど、F1が50取れたってことは、20代の女性に訴求力のある番組ってことだね」という会話が交わされます。
その言葉に、テレビ局のその番組の制作者は少しホッとするのです。
なぜなら、広告業界では、若い女性というのは購買力のある層だと位置付けられているので、この層に受けが良い番組はスポンサーから有り難がられるからです。
つまり、業界内評価が高いというわけです。

また、「個人全体」という数字もあります。これが現在「個人視聴率」と言われる数字です。

     メディアコンサルタント境 治さんの資料より

上の図を例にすると、10世帯あって6世帯がある番組を見ていれば、世帯視聴率は60%。
でもその中の個々人がこのような感じで見ているとすると、個人視聴率は36%です。

昔は一つのテレビで家族全員で同じ番組を見ていたので、世帯視聴率=視聴率と言って良かったのです。昭和のころなら紅白歌合戦が40%だったら、国民の4割が見ていたといっても間違いではなかったでしょう。

でも今は、家族みんなで一つの番組を見る、なんてこと滅多にないですよね。同じ家族でもテレビを見るのは、時間帯によって人も人数も違うし、リビングの他におばあちゃんの部屋にもあったりします。
つまり番組によってお客さんが違っていますよね。
だから、世帯視聴率よりも個人視聴率の方が、テレビ視聴の現実を表現できていると言えそうです。

これまでの調査実績から、個人視聴率は、上の例のように世帯視聴率のおおむね6割と言われています。なのでこれまで「20%突破!」と喜んでいた番組は、実は12%だったということですね。

というわけで、その方が正確だと考えた、テレビ業界、広告業界では、指標を世帯視聴率から個人視聴率にシフトする動きが出てきています。
ビデオリサーチ社も、それまで主要な地域だけで調査していた個人視聴率を、2020年4月から全国ですることにしたそうです。

ビデオリサーチ社は、それに加えて個人のさらに詳しいデータも調査し、個人視聴率と組み合わせて、「どんな人が見ているか」まで解析していくそうです。

さらに全体にサンプル数を増やすことも発表しました。
関東の調査世帯はこれまでの900世帯から、3倍の2,700世帯に増やすそうです。

そうすると、例えば「年収1,000万円以上で今こんな自動車をもっている人」が「どんな番組を見ているか」のサンプルがかなりの数、取れようになります。
すると、その人たちにどうCMを打てば良いかも見えてくるのです。

つまりこれは、広告、テレビ、スポンサーの3者の思惑に、ビデオリサーチ社が応えようとしているということなのです。

3者の思惑とは何か?

もともとテレビCMというのは、テレビのその強大な影響力&拡散力を利用して、とにかくたくさんの人に見てもらって商品のことを知ってもらえばそれでいい、というものでした。大量生産品の大量販売。まさに古き良き昭和の時代のCMですね。

広告業界は、CMの役割を、そういう広く浅くというものから、「こういう商品なのでこういう人に見てもらおう」という限定的なターゲットに刺さるものに変えていこう、と考えたわけです。

その背景には、インターネットの台頭がありました。

テレビとインターネットと視聴率

「てれび?あんまりみない」「ネットのほうがおもしろいしー」
最近巷でよく聞く言葉ですね。実際、世の中がそういう傾向にあることは、肌感覚としても感じますよね。

      電通の資料より

2019年、日本の総広告費6兆9,381億円のうち、
インターネット広告費:2兆1,048億円。
テレビ広告費:1兆8,612億円。

ということで2019年は、これまで圧倒的に広告費のトップを占めていたテレビが、ついにその座をインターネットに明け渡した年となりました。

スポンサーたちは、こう考えたわけです。
「ターゲットが明確なところに広告費をあてた方が、広告効果が高いんじゃね?」

景気が停滞し、かつてのように広告費をバンバン出せなくなったのですから、より効率の良いお金の使い方を考えるのは当然のことです。
だから、
“たくさんの人に見てもらえるよう、お年寄りから子供まで幅広~いターゲットの視聴者に向けて”作られたテレビ番組より、
ターゲットが、20代の女性向け、30代の男性向け、OL向け、サラリーマン向け、主婦向けなどというように明確なコンテンツを持つインターネットに流れていったわけです。
この場合の”コンテンツ”というのは、YouTubeなどの動画やサイトやブログの記事のことで、テレビにおいての”番組”に当たるものです。

そこで、テレビ業界は今後どうやって生き抜くか、が課題になっています。
これ以上インターネットに広告費を持っていかれるわけにはいかない。
スポンサーたちがそう考えるんなら、俺たちの番組も、ネットのコンテンツみたいにターゲットを明確にしていってやろうぜ。
と、テレビ局側は考え始めているようです。
どれも似たり寄ったりだなあ…と思われていたテレビ番組が、これからは変わっていきそうです。妙にマニアックな番組が色々出てきたりして。
ちょっと楽しみですね。

改めて「視聴率」とは何か?

二回にわたって見てきた「視聴率」。
これでおわかりいただけましたね?
「視聴率」という数字は、あくまで、テレビ局、広告代理店、スポンサーの3者たちのお仕事用の数字、業界用数字だということを。
つまり、本来ならば公になるデータではないんです。
だから新聞やネットでランキングが発表されて、一般の人たちが話題にするようなものではないんです。

もう一つ大事なことはがあります。

それは、「視聴率」は”番組の良し悪しを表す数字ではない”ということです。

高視聴率を獲得する要因というのは何でしょう?

もちろん、その番組に興味を持つ人が多いということもありますが、
それ以外にも、天候(雨が降れば家にいる人が多い)、横並び(同時間帯にどのような番組が並んでいるか)などにも左右されるんですよ。
そういった環境要因も、その日だけのことではなく、その年のムードといったものもあります。例えば、オリンピックイヤーなどは、人々がスポーツに目覚めるのか、スポーツ番組の視聴率が全体的にアップしたりするんです。
また、お客さんが番組に興味を持つきっかけも、番組の企画内容だったり、出演者だったりと、皆一様ではありません。

つまり、「高視聴率の番組」というのは、どんな要素であれ、”人々の興味を惹きつけ続けて結果的にたくさんの人が集まった”番組だということです。

番組制作者たちや広告代理店、いわゆる”テレビのプロ”たちは、上記のように視聴率の内容を分析して、視聴率が取れたら取れたでその要因を見つけ出し、次の番組作りや放送時期の決定に生かそうとします。

しかし、そんなことのわからない一般の人々が、この数字の表面だけを見て、ランキングを見たらどう思うでしょう?

「そんなにたくさんの人が支持してるんなら、いい番組なんだろうなあ」
と思ってしまいますよね。

でも、”「視聴率が良いなら良い番組」とは限らない” ”視聴率が番組の良し悪しを測るメータではない” ということがこれまでの説明でお解りいただけたと思います。

もちろん、高視聴率と良い番組とは、重なる要素が確かにあります。
質の良くない番組は、仮に話題性でお客さんが食いついても、どんどん逃げていきますから高視聴率にはなり得ませんからね。

気をつけなければならないのは、「視聴率が良いから見てみよう」という風に、視聴率を、番組選びの基準にしないことです。
この本流行ってるから買ってみたけど、全然おもしろくないや、なんてことあるでしょ?それと同じことです。

要は、「視聴率」なんてものは、一般の人たちにとっては、話のネタにするのは良いとしてもその数字に左右されるべきではないということです。
だってプロ用の数字だったんですもんね。

でもこの記事を読んでくださったあなたなら、視聴率の数字の中には様々な要素があることがわかりますよね。これからは、プロの視点で視聴率を分析してみるのも楽しいかもしれませんよ。

最後に

時代の変化とともにテレビの見られ方が変わってきたので、視聴率の調査方法や中身も変わってきました。
ここ数年でインターネットが大きく台頭してきたとはいえ、テレビの影響力は未だ絶大です。
だって手軽ですもんね。スイッチ入れるだけでポンと番組が出てくるんだから。
パソコンやスマホだともう一手間ふた手間かかりますもんね。ハード面でのこの差は実は意外と大きい。
また、冒頭に紹介した、コロナ禍の影響によるテレビ視聴量の増加に現れているように、何かあったときの速報性や信頼性に人々が頼る傾向は顕著です。
言い換えれば、そのくらいテレビは影響力があり、信頼されているということです。

テレビ制作者たちがそのことを忘れて、なんの制限もなく自分たちの興味や好みでネットのコンテンツのような番組作りを始めたら、その信頼性を無くし、お客さんを更に失うことになりかねません。
「テレビとネットは違う」そんな当たり前のことを今改めて見直して、テレビの未来に向かって邁進していただきたいですね。偉そうですみません。

最後までお付き合い頂き、ありがとうございました!

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